2. マンガと子どもたちの関係

2.1 マンガの題材について


 マンガのもつ影響力の巨大さは、たとえば子どもたちのあいだにある種の流行を巻き起こす引き金となるところから間接的に観察される。現在はさほどでもないが、66年の『巨人の星』を皮切りに始まった「スポ根マンガ」 ブームは、その後も子どもにとって未体験のスポーツ世界をマンガというフィクションでなかば大げさに、ドラマチックに語ることに成功し、大多数のファンを獲得した。90年代の例でいえば『SLAM DUNK』(井上雄彦、90年)が単行本第一巻の初刷だけで250万部という驚異的部数を記録している。マンガがきっかけでスポーツ等を始める子どもは多く、大きな例でいえば熱血バレーボールマンガ『アタックNo.1』(浦野千賀子、68年)『サインはV!』(作:神保史郎、画:望月あきら、68年)はバレーボールブームを 、長期連載となり続編 も出た『ドカベン』(水島新司、72年)は野球ブームを 、サッカー少年大空翼の活躍を描く『キャプテン翼』(高橋陽一、82年)は少年サッカーブームを巻き起こした。超人的なヒーローが活躍するわけではなく、現実的なチームプレーを描いた『キャプテン』(ちばあきお、72年)も注目すべき存在だ。初代キャプテンで、読者の熱狂的要請が作者に彼のその後のエピソードをかかしめた努力の人「谷口君」は、人間離れした技や力をもっていなくても人気を得ることのできる好例である 。

 ともあれ、商業雑誌の性格上、その判断基準が編集部の方針により異なることはあれども、子どもに人気のあるものだけが生き残り、人気のないものは淘汰される。97年に「少年マガジン」に逆転されるまで雑誌界のナンバーワン部数を誇った「少年ジャンプ」が、作家の実績や作品の質に関係なく、読者アンケートで人気のないものは連載10回ですぐに打ち切りにする方針できたことは関係者の間でよく知られている。結果的にその時々の読者のニーズを反映した紙面がつくられていく。そのことは近年現れたTVゲームを題材にしたマンガなど、子どもの流行に非常に敏感に追随する面からも明らかである(この傾向は幼年誌に強い)。特に今回対象とするようなメジャー系の雑誌においてはどれだけ多くの読者の支持を得て部数を伸ばすかが課題になる。

 雑誌が読者側に合わせるのとは逆に、雑誌側が雑誌全体の傾向として読者にある種の商業的ブームを煽ることも十分に考えられる。雑誌が商品戦略の一環として使われるということであるが、これは「ジャンプ」ほど対象層が広がってしまうと効果が薄くなってしまうため、幼年誌の「コロコロコミック」あたりにいちばん顕著にみられる。これがマンガ文化の「罪」のほうになるかどうかは、3章の具体的検討を待たねばなるまい。
 以上述べたことをふまえ、雑誌分析のさいに全ての掲載マンガにおいてマンガの題材による区分(TVゲーム、ミニ4駆などのホビー、各種スポーツ、等)を行った。マンガ全体の傾向を探るひとつの指標になるだろう。


戻る  ▲目次へ  →次へ