1.5 月刊少女マンガ誌「なかよし」について

 「なかよし」の創刊は「りぼん」と同じく1955年。最近のヒット作は武内直子の『美少女戦士セーラームーン』で連載は1992年から。96年の公称部数は180万部で「りぼん」より少し落ちる。対象読者層は小・中学生女子。本誌では読者の投稿とともに名前と学年を記載していることが多いので学年の幅の確認をとったところ、小学2年から中学3年までが確認できた。付録の内容は「りぼん」より高度で、組み立て付録は倍以上の時間がかかったほか、説明書きも細かく見にくかった。しかし漢字の使用量が少ないなど、低年齢層への配慮が感じられる。紙の組み立て付録のほか、縫う必要のあるものがあった。 「りぼん」との編集方針の違いが見られるのは「ゲーム」の特集記事があることだ。「なかよしゲーム天国」というレギュラーコーナーがあるほか、10月号から「たまごっち」を題材にした新連載『てんしっちのたまごっち』(かなしろにゃんこ)が始まっている。「ファミコン」時代から男の子主体だったコンピュータゲーム分野だが、光栄が女性だけのTVゲーム開発チームを作って女性用ソフト『アンジェリーク』を開発し、これが96年に女性ユーザーに大人気を博す など、現在女性がゲームをすることは珍しくなくなった。96年から女子学生を中心に大流行した携帯型ミニゲーム『たまごっち』を「なかよし」が特集することも、決して不思議なことではない。むしろ今まで男性に偏っていた情報を切り開いた点で評価できる。しかも「コロコロコミック」ほどゲームの広告情報があふれていない。その他の誌面の特徴については「りぼん」とほぼ同じだ。

 注目点として、巻末5ページと雑誌全体のコマ下に空いたスペースを利用した読者投稿欄「スーパーちゃめっこクラブ」がユーモアセンスあふれる面白いものに仕上がっている。内容としては以前の『ジャンプ放送局』で行われていたような、編集部の笑いを誘うユニークなユーモアネタを募るもの。マンガ雑誌の一部にはこのようなユーモアセンスを鍛える格好の読者コーナーがあることは、雑誌が読者に果たす役割の懐の広さを感じさせる。なかにはマンガのなかのセリフを逆から読んでみるなど、自分なりの新しいものの見方を開発してネタを作る例があるなど 、遊び心で普段何気なく使っている言葉を改めて認識する契機になっているようだ。

 マンガに関しては「なかよし」は1冊平均の総マンガ数が16点と、対象5誌のなかで一番少ない。その分各号のプッシュ作のページ数を増やすなど、内容の方に重点を置いているようだ。題材はやはり「恋」を中心に据えたものが多いが、次いで「メルヘン」が3点、「ファンタジー」が2点あった 。主人公の年齢は「りぼん」が中学1年から高校1年の間にほぼかたまっていたのに対し、「なかよし」は9歳から17歳までとかなりばらけている。ただし一番多いのは中2、中3だ。風刺対象としては「学校の規則」や「環境破壊」が観察された。アニメ化作品は少なく、98年1月での雑誌連載との同時期放映は『夢のクレヨン王国』だけだ。連載が終了したものでは『あずきちゃん』がNHK教育とNHK衛星第2で放映されており、また『カードキャプターさくら』が98年4月から衛星第2で放映予定である。

 『夢のクレヨン王国』(片岡みちる)については福永令三の童話小説のシリーズがもとで、アニメ化とマンガ化は同時に企画されていたらしい 。原作は1964年に「クレヨン
王国の十二か月」が第5回講談社児童文学新人賞を受賞して以来シリーズ化され書き継がれてきた。「おねぼう」「うそつき」などの12の欠点をもつシルバー王女は、原作では王妃の設定。メルヘンチックな絵柄と「王女」「アラエッサ」(ニワトリ)「ストンストン」(ブタ)の3人の主要キャラクターの個性的な性格が魅力的だ(左上図版資料:1巻-p157)。児童文学・マンガ・アニメのメディアミックス作品として、非常に意義深いものである。「子ども」を中心とした周囲のメディアが協力して良質の「子ども文化」を作っていこうという流れが出てきたことの表れといえよう。文学がマンガ化される例としては、ほかに「ジャンプ」に中国の古典伝奇小説『封神演義』を原作にしたマンガがかかれ、人気を博している 。

 マンガの内容に表れた特徴については同じ少女マンガ誌である「りぼん」と共通した点が多い。主人公の性格で多くみられるのが「明るく元気」「自由奔放」「純真」の3点。絵柄はかわいく、単純で親しみやすいサブキャラクターが登場する例が多い。たとえば『カードキャプターさくら』の「ケロちゃん(ケルベロス)」である。ケルベロスの一般的な恐いイメージを払拭した、単純なぬいぐるみのような容姿をしている。しかも関西弁をしゃべるという個性的なキャラクターである(左中図版:1巻-p29)。前述の「アラエッサ」と「ストンストン」も、その名前もさることながら非常に単純な絵で、アニメを観た低年齢児でも真似して描けそうだ。たかおか夏希『水色のたまご』の小人たちもかわいらしい(左下図版「なかよし」11号-p205)。
 恋物語ではヒロインがもてる(複数の男の子に好かれる)ものが多く、読者の願望が表れているようだ。その結果、主人公の恋が成就するとともに脇役の恋は破れるわけだが、主人公以外の気持ちの描写が細かいため、主人公ばかりに感情移入するのではなく客観的に登場人物の心理をよみとれるようにもなっている。


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