社会の変化に対応し、社会的要請に応えることができる新しい家庭科教育について

 平成元年版学習指導要領から、中学校技術・家庭科および高等学校家庭科の男女必修が決定し、今に至っている。日本家政学会が行ったアンケートによると、男女が学ぶ教育内容として特に重点をおいてほしいこととして、「家族の人間関係に関すること」が群を抜いていたという。このことからも、衣食住の知識や技術が中心であったこれまでの家庭科教育を改編していく必要を感じる。

 これからは家庭科教育の対象を「人間の生活」から「生活する人間」にシフトし、人と人、人と物、人と環境との関係を追及していく学問へしていくことが求められるだろう。内容領域の核に「家族・保育」、そしてそのまわりに食生活、住生活、衣生活を位置づけるカリキュラムがすでに実施されている。そして、さらにその周辺に、より広範囲に、老人問題や環境問題、国際化問題などの社会問題を関連づけて考えていく。その理由は、近年、家庭内だけで解決できない問題が大きくなっているからだ。核家族化、小家族化、既婚女性の就労増加、単身赴任の増加、老人介護といった最近の家庭内の問題は、自由時間の増大、余暇活動の活発化による生きがいや価値観の多様化、生活水準の向上や医療技術の発展による高齢化、女性の地位向上による社会進出の活発化、都市化などの社会問題と関連づけて総合的に考えていかなければ解決できない。家庭科教育の目的は、「家庭生活を中心とした人間の生活を総合的にとらえて、これを追求し、創造する実践的能力をもつ人間の育成」であるが、ここには総合的、実践的、創造的性格が求められるのである。

 そうであるから、例えば「自分自身をみつめる」ことを出発点にして、家族領域の学習をはじめ、次第に将来のことや周辺環境のことも考えていく中で、保育領域の学習もし、地域社会の問題も学習していくといった学習過程も考えられる。その過程においては、核家族化によって対面することが少なくなった人の死を教える場を組み込むなど、他教科の教育課程にはないけれども人間が生きていく上で重要なことを自然な学習の流れの中で学ばせることができるのではないか。

 総合的、実践的、創造的性格といえば次年度から小学校で完全実施される「総合的な学習」も思い浮かぶところであるが、このことが新しい家庭科教育の創造に向けてよい後押しになるのではないかという期待もある。例えば現状の小学校家庭科の課題として、家庭科は5年、6年の高学年でしか実施されていない教科である。それまでの学年、それも低学年のときから、「家庭科につなぐ」という視点を持った生活関連学習が求められていた。低学年「生活科」、それから中学年「総合的な学習」の教育課程をうまく工夫することによって、スムーズに家庭科学習につなげていくことができるのではないか。

 現在「家庭科」に期待されている生活を創造することのできる能力は、根本的に教育に求められている代表的な能力でもある。機械化により家事労働の負担が減ったり、核家族化により様々な世代から教わっていく機会がなくなった現在、より一層その重要性が増してきた。しかし同時に日常生活のうえであまり意識しなくなってきただけに、身につけることが難しくなってきたといえる。生活に不可欠な衣・食・住などの基本的な知識、技術を、いかに必要性を理解した上でスムーズに学んでいくか、いかに知識として得たことを実践して「できる」ところまで高めていくかが、特に重要なポイントであろう。

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