教育の方法と技術

1. とらえ方

情報化社会での将来の職業の変化
例)ロボットを設計し、製作し、プログラムを作る仕事
教育=人の学習を促進するために一連の学習状況をつくること
自己教育力=学習者が自ら学ぶ

静的な知識の習得より、動的な知的能力の獲得、形成が必要
→結果(獲得した知識)よりも過程(=取捨選択する能力と、情報を生産する能力)

・情報処理の過程
@情報の分析・加工
A新しい発想に昇華
B発想の適否判断

・よい授業を作るために(選り抜き)
@授業目標の明確化
A学習者の特性理解
B授業内容の選択と系統化
C授業形態の吟味
D教育メディアの選択

・カリキュラム ← @現場からの必要性/A比較(外国等)からの必要性


●教師の能力=
@授業を設計し、実施する能力
・小さい技術(特定技術)
・大きい技術(統合技術)
(常にその理由や原理を考えること!)
A人間関係を保つことのできる能力

・ 学習者は「師の背中」からより多くを学ぶ

2. 基礎理論


構成主義
・知識習得の3段階

 



● 学習者が構成する知識は伝達される知識とは異なる!
学習者は、おのおの異なる心の世界、知識、見方、意味などを構成する。

客観主義  →  構成主義
情報から意味(経験や解釈)の世界へ

行動主義(教師中心)→認知論(学習者中心)


3. カリキュラム開発

カリキュラム=
@ 非計画的で無意図的な教育内容として、学校文化や生徒文化、校則や伝統、校風などの
「潜在的」なものを含めることができる。
A 「履歴」という意味もある。「子供サイドから見て、身につけているもの」自体を意味す
ることができる。
→ 「子供の学習経験の総体」だとする見方も強まっている。
○広い意味でのカリキュラムは、個々人の人生そのものに関わる道しるべ
→(デメリット)
社会科学的一般目標から学習目標や内容を規定するカリキュラム開発は、子供の授業過程
における選択や決定の自由と矛盾を引き起こしやすい。

・生涯学習とカリキュラム
この場合カリキュラムは、学習しなければならないコースとしてではなく、自分が学習を
進めていきたい、主体的に関わるコースである。
・学校教育の2つの課題
「学力形成」(←学習意欲、学び方、みずから学び続ける意志)と
「人格形成」(→義務教育が終わった時点で「自立」が必要)
学習者側の「自学自習」=「自己教育」をめざす
→教師主導型から環境活用型へ
環境:ヒト、モノ、コト
例)図書室:アメリカでは重要な位置づけ。司書教諭完全配置。
教室で何もかも教える形から、学習者が自分で最適の環境を探し、活用して学習していく
形へと変えていく
・カリキュラム・リフォーム
例)1種のアウトソーシング。「道徳」と「特別活動」の主な部分を学校の外に出す。
 部活動を社会教育のほうに移し、教師の負担減を図る

● カリキュラム評価
どこをどう変えるのかという問いかけに答えることが課題である。

・年齢(年数)主義 or 履修主義
年齢や年数により規定
例)日本の義務教育

・課程主義 or 修得主義
修得度による。合格水準以下は落第、留置
例)日本の高校、大学

・ 工学的アプローチ
教育目標の分類 → 内容項目 → テスト
・ 羅生門的アプローチ
熟達した教師が柔軟に対応、教師や観察者の目によって評価

● 国別カリキュラム比較
アメリカ・イギリス :検定教科書を用いない。(教科書は参考に過ぎない)
イギリス:各学校の校長が教育課程を作成
アメリカ:州によって定められた基準に基づいて地方の教育委員会が学習指導要領を開発
日本:文部大臣←教育課程審議会
→学習指導要領作成協力者会議
但し、地方に教育課程研究指定校
メキシコ:詳細な学習指導要領を開発

● 個別化(同じゴールを目指すが、学習スピードに配慮)
 ≠ 個性化(個々人の主観的な価値観を認め、発達させるよう援助)

・ カリキュラム開発機関
ユネスコ IIEP(International Institute for Educational Planning;1963)
OECDのCERI(Center for Educational Research & Innovation)など。


4. 授業の設計・実施・評価

認知論に基づく授業設計(行動主義:教授中心からの脱却)
ねらい:個人の学習を助けること
即時的+長期的
結果は、人間としての成長に大いに影響を与える
システムズ・アプローチによる
(各構成要素の相互作用、順次修正されながら入力・出力・変換・フィードバックを行う)
→焦点化:授業の最初の頃には「学習者が何を知るべきか」
 授業が終わる頃には「何をすることができるか」
人間としての学び方に関する知見に基づく

教師の基本的機能
Enabler(何かを可能にする役割)+Fac%litator(何かを促して容易にする役割)
@ 注意を集中させる
学習者の興味・関心に訴えるために、
●動きの変化、●身振り・動作、●言葉による焦点づけ、●働きかけの対象を変える
A 目標について熟知させる
一連の学習が終了したときに、何ができるようになっていればよいのか、わかるかたちで
提示
B 既習の諸能力を想起させるような刺激
C 刺激教材の提示
必要な特徴について知覚を用意にするような工夫
● 太文字、●下線、●相違点の強調や拡大、●形状の対比
D 学習の手引
学習者が筋道を外さないようにするために
(以下、略)

授業設計書(学習指導案等)
学習者がどのようなタイプの学習を必要としているか見極める
・ 学習者の特性に関する教授方略
学習者個人に特有の認知スタイル(情報処理様式)
a. 場との関係 @場依存型 A場独立型
b. 反応スタイル @熟慮型 A衝動型
c. 何に着眼して事物を分類するかという刺激のカテゴリー化 @分析型 A非分析型
d. 認知の好み @疑問型 A記憶型 B基本原理型 C応用型

学習への一連の動機付けを工夫することが必要
1. 注意を喚起し、やりがいがありそうだという意識を持たせ
2. 行ったことにより自信がわいてきて、満足感でいっぱいになり、
3. 次の学習への意欲がわく

実践能力目標
「〜に興味・関心を持つ」という目標は、興味・関心を持つこと自体が究極的なねらいで
はなく、それを通して、関連づけられた学習への積極的参加を期待するものである。

・ その単元の学習目標を全員に達成させるためにとりうる手だてのレパートリーをできる
だけ多く考案する
授業過程の記録と分析
・ プロトコール・アプローチ
(再現性、反復性、保存性の機能を持つ。授業のビデオ録画等)


5. 教材開発

注意! 
× 学習者の注意を引き、わかりやすくすることに集中しすぎ、学習者に十分に考える余
地を残さない。

印刷教材
・レイアウトに注意を払う。十分な余白をとること。
・2つ折りにしたときに、絵や文が折り目にかからないように。
・ノートに貼らせるときは、ノートよりやや小さめに裁断して配布。

微修正)小さな原稿を貼ったとき、境界線が出ることがあるので、コピーを取って線が出
れば修正液を使用するのがよい。
コンピュータによる印字でギザギザ感があるとき、コピーをとることで改善できる。

静止画(OHPやスライド、掛け図、紙芝居)
・指示棒を使って学習者の視線を集中させるのがよい。
(OHPでは投影スクリーン上ではなく、ステージ上で指す)
● 黒板
板書計画を立てること
・ 小黒板、方眼黒板の利用、模造紙を貼る、厚紙の裏に磁石をつけたカードを貼るなどの
方法もある。(再掲示や移動に便利)
● 紙芝居
● スライド
○教材の自作が容易であり、地域教材などが作成しやすい。
○臨場感があり、事物・事象を近似的に表現できるので、代理経験が可能。
○映像の連続提示によりストーリー性をもたせることもできる。文学作品の理解に適。
操作)
・映写終了後も送風機をまわして、スライドプロジェクタのランプを冷却する必要のある
ものが多い。
・ スライドのコマをセットする前に、上下・表裏の確認をすること。
・ コマ送りの仕方には、リモコン式と手動式がある。
作成上の注意)
カラーのスライド用フィルムを用い、35mm判一眼レフカメラ等で撮影。現像に出すと、
スライド用マウントに収められて戻ってくる。
コマ番号を書き込み、天地を逆にして映写向きがわかるように矢印などを書き込んでおく。

● OHP(オーバー・ヘッド・プロジェクター)
・反射式と透過式があり、教室では透過式が主流。
○ 明るい場所でも鮮明な画像(板書・ノートと併用可)
○ 機器の構造が単純、操作が簡単。学習者の利用も可能。
○ 直接TP(透明なシート。transparency)シートに書き込みができる。
○ 自作が容易。
操作)
・ ランプにはハロゲンランプとメタハラランプがある。メタハラの方が明るいので講堂等
での拡大投射に有効だが、スイッチを入れてから1〜2分しないと十分な明るさになら
ない。
・ 自作時は、TP大の紙に下書きをする。文字サイズは1~1.5cm角。文字数が多くならな
いように。→下書きの上にTPシートを重ねてなぞる。
・板書代替法
○ 板書による時間の無駄や重要事項の欠落防止に役立つ。
×学習者が単にノートに書き写すだけになったり、目が疲れやすいなどの問題も。
・ 記入消去法:水性ペンでの記入・消去
・ 合成分解法:複数シートを重ね合わせたり、取り外したり。
○部分と全体の相互関係など、構造的理解に役立つ。OHPならではの方法。
・模型作動法:動かしたり移動させることで、構造体の仕組みなどの理解が容易になる。
・ (平行・回転・対称)移動法:
2枚のTPシートに図形などを描き、基になる1枚のシートに対して他方を、左右、上下、
斜めに移動させたり、回転させたり、反転させたりして提示する。
○図形や座標の相対的関係や、星座などの直観的、即物的な理解に役立つ。
・ 流動表示法:偏光紙を貼り、偏光板を投影レンズの前で回転させると、流動状態を提示
することができる。血液の流れや電流の流れの視覚的表現に。
・ 動画的提示法:ロールシートに背景などを描いておき、これを巻き取りながら、別のTP
シートに書いたり、厚手の紙で作った切り抜きをステージ上で動かす。動く紙芝居や影
絵的な利用。

● テレビ・ビデオ
一過性や予見不能性といった問題を、ビデオに撮ることによって解決。
学習の導入部での利用が多い。
(学習者の興味・関心を高め、学習への動機付けや方向付けを行いやすいように番組が制
作されているから。ほかの役割として、
・ 学習の大きな流れをつかませる
・ 学習の構えを整えさせる
・ その後の学習効果を高める
ということがある。)
・ 番組途中で画面を静止させ、説明をはさむ分断視聴もよく行われる。
・ 見たときにわかったつもりでも、記憶が徐々に薄れていくので、記録として残す視聴記
録(感想文等)が重要。

☆ビデオ操作上の注意)
・テープのはじめは30秒くらい空撮り。
・ 画面の移動はゆっくりとスムーズに。最初と最後の場面は3〜5秒間静止させる。
☆ 利用例)
・抽象的なものを映像で
国語:文章のイメージの明確化
音楽:情景のイメージ
・ カガミ的利用:撮影後すぐに提示。生徒が今やったことをビデオで見せる。

6. 授業実施の技術

板書計画→授業中に板書内容を活用
●説明・解説のスキル
@学習者全員の表情を観察しながら、話す。
A大きな声で、ゆっくりと明瞭に話す。
B 具体的な例やエピソードを加えながら解説する。
C 説明一本やりにならないように
例:「〜と聞いたらどんなことを思いつきますか?」といった問いかけで始め、児童・生徒
の考えつきそうな答えを提示しつつ説明する。

●指示のスキル
@ 1つ1つ段階を追って指示する
× 一連の指示を一度にまとめてする
A 短く、簡潔に
B 具体的で、別な指示表現を工夫する。
例:「大きな声で〜」→「息を大きく吸い込んで〜」
→学習者に、どのようにすればよいか徹底させることができる。
C 到達点や条件を具体的に明らかにして、それに挑ませるよう工夫する。
D 指示した内容を確認する工夫
×「今から注意することを言います」
○ 「今から注意を3つ言います。後でその3つを言ってもらいます」
E 視覚に訴える工夫もする
「静かにしてください」
→○ 黙って指を唇に当てて「シー」、黒板に「静かに」と書く、ある一点を黙って指し示


●授業運営のスキル
ごく最低限の必要なものに絞って徹底する
→十分に徹底した段階で、次のルーチンを導入する

7. 授業の評価と改善


授業評価:自分の授業の質を高めるために実施する主体的な活動
対象:
指導方略strategy(全体的な企画。ある授業が他の授業とは異なるものになっている根拠)
指導方術 tactics(計画的方術と即応的方術)

@ 事例研究から始めよ
1つの事例を深く分析せよ。比較はするな。
各授業は質的レベルに関係なく個性的な存在である。

● 授業観を検討→評価が明確になる

個人についての評価する場合の比較の視点
a. 1クラス内での個人差に着目
b. 個人の成長など経時的な変化に着目
c. 個人の多面的な能力の違いに着目
d. 個人ごとの目標への到達度

● 直接観察:観察者を決めて記録・分析する場合
分担を決め、教師の行動や子どもの行動、特定の抽出児の行動などを小さなカードに綿密
に記録。