宮澤賢治「やまなし」より 表現の目標:演劇性と音楽性の融合 1. 素材についての解釈 「やまなし」という童話。 この作品の中で、賢治は「小さな谷川の底を写した二枚の青い幻灯」という形で 五月と十二月の2つの世界を描いている。 この2つの世界を通じて、「弱肉強食」と「共存」という自然の姿を端的に描く。 そして、賢治が理想とした、自然に生きつつ他に恩恵を与える生き方を 「やまなし」に象徴させる。 作品中で対比されている色 黒(くちばし)←→ 白(魚の腹) 黄金(日光)    ←→     鉄色(魚)   青白い(水の底)  ←→   白(岩) 青光り(カワセミ) ←→   黒(くちばし) 黄金(日光)    ←→   青(水) 黄金(日光) ←→  黒(かげ) 白(かばの花びら) ←→   青(水) 明るい         暗い 「5月」で対比されている言葉 死んだよ ←→ 笑った 死んだよ ←→ 殺されたよ 「死んだよ」と「殺されたよ」との違い 「死んだ」ということは、「自然に」ということで、 「殺された」というのは、他の者に生命をうばわれたということ 「12月」で対比されている色  青白い(波) ←→ 黒(やまなし) 黒(やまなし)←→ 黄金(やまなし) ●五月と十二月、それぞれもっとも大きな事件は 五月 魚がかわせみにおそわれたこと 十二月 やまなしが落ちてきたこと かわせみは何のために魚をおそったか。 「えさにするため。」 カニの親子は、やまなしを追いかけて、その後どうしようとしたか。 「自然に酒になるのを待って飲もうとした。」 2. 作曲についての留意事項 明るさと暗さが矛盾をはらみながら対立、と見えて調和する曲性。 明るさを表現する調:ハ長調 暗さを表現する調:イ短調 (平行調) 明 → 暗 → 明(終わりは暗) あくまでも主体はメロディーであり、歌詞である。 無伴奏でいいくらいのつもりで、ピアノ伴奏は補助的に使用する。 ただし、雰囲気をつくるために、とりわけ強弱ははっきりつける。 最初のきっかけをピアノが与え、 歌はその後すぐに入り、テンポを作る。 3. 演奏についての留意事項 (歌) 歌詞をはっきり出すこと。 演劇のせりふや読み聞かせと同じような「語り」が必要である。 声は、明部と暗部で若干変えるようにする。 「なぜ」は、はっきりと問い詰めること。その後の間は自由である。 (ピアノ) ピアノ伴奏は、歌にあわせて補助的に機能すること。 強弱によって曲の表情をよりはっきりさせること。 アクセントとスラーの差にも注意を払うこと。 最終小節は、歌がどちらかといえばリタルダンドしていくのに対抗するように、 可能な限りトレモロのスピードを速めていくようにすること。